寒くなると、温かい一杯がうれしい季節です。草木や果実の香りを楽しむ「薬酒」の世界を、少しのぞいてみませんか。2006年、東京・三軒茶屋の5坪の店から始まった薬酒BAR。代表の桑江夢孝(くわえ・ゆめたか)さんに、薬酒との出会い、店づくり、初めての一杯の選び方を聞きました。

取材協力:薬酒BAR。編集部が招待を受けて取材しました。本記事の掲載にあたり、掲載料は受け取っていません。

本記事で紹介するのは飲食店で提供する酒類の楽しみ方です。飲酒による健康増進や病気の予防を勧めるものではありません。お酒を飲まない方には、アルコールを使わない選択肢もあります。

薬酒って、どんなお酒?

桑江さんが語る薬酒の魅力は、草根木皮の香りや味わいに、昔から受け継がれてきた知恵を重ねて楽しめること。季節やその日の気分に合わせて、一杯を選ぶ面白さがあるといいます。

濱田さん

どうせお酒を飲むなら、自分の気分に合わせて選べるのはうれしいですね。

お正月に親しまれてきたお屠蘇も、草木や香辛料の香りを楽しむお酒のひとつ。一年の健康を祈る文化と、飲み物そのものの医学的な効果は、分けて考えたいところです。

濱田さん

「薬酒」と「薬膳酒」は、どう使い分けていますか。

桑江さん

これは僕の感覚なんですけど、薬酒というと、いくつもの生薬を組み合わせた、昔ながらの本格的なお酒のイメージ。薬膳酒は、薬膳の考え方を家庭やお店で取り入れやすいように、甘みや飲みやすさを工夫したもの、というイメージですね。

ここでの使い分けは桑江さんの捉え方です。「薬酒」という名前だけで、医薬品としての承認や効能があることを意味するわけではありません。

素材と向き合う桑江さん。提供写真
素材と向き合う桑江さん。提供写真

看板のない5坪の店から

桑江さん

母は栄養士でもあって、ご飯のたびに「今はこれを食べておきなさい」と言われていました。暑い日には夏野菜、みたいに。ひいおじいちゃんは漢学者で、家系には学者や医者が多かったんです。

20歳から飲食の仕事に携わり、音楽やテレビの仕事も経験。大切な人の体と向き合ったことをきっかけに、薬草を学び、海外にも足を運ぶようになりました。学んだことを、どうすれば身近に感じてもらえるだろう。その問いが、バーという場所につながります。

桑江さん

これを広めるにはどうしたらいいだろうと考えて、体験してもらうしかないと思ったんです。好きなものを楽しく飲んでいたら、東洋の知恵に自然と触れている。そんな店をつくりたかった。それでバーを出しました。

2006年に開いたのは、三軒茶屋にある5坪ほどの、看板のない店でした。

桑江さん

お酒の名前の付け方ひとつにも決まりがあって、最初は分からないことだらけでした。ひとつずつ学んで、必要な手続きを整えてきたんです。看板がないから、電話に出るときも「はい、バーです!」って(笑)。そのうちにお客さんのほうが「薬酒、薬酒」と言い出して、それで「薬酒」と名乗るようになったんです。

濱田さん

お客さまが名前を付けてくれたんですね。

一軒目の店で出会って結婚したお客さんもいるそう。香りや味だけでなく、人と人が出会う場所として、店の時間が積み重なってきました。

薬酒BARが大切にしていること

桑江さん

バーテンダーは、シェフと同じようにアーティストだと思っています。飲食の人たちは、「家では味わえないものを出したい」と、おいしくすることにこだわる。そういう人たちが薬酒を扱えば、生薬の苦みや癖も、おいしい一杯になるんです。

濱田さん

お店が増えても、変えずに守っていることはありますか。

桑江さん

スタッフには最初に研修をしています。お酒とは何か、薬草とは何か、東洋医学とは何か。基本を知っていれば、やってはいけないことも分かる。分かっていれば行き過ぎないんです。そのうえで徹底してもらっているのが、店に入ったときより、出るときには1ミリでもいいから気分が上がって帰ってもらうこと。機嫌の悪い人も来るけれど、そういう人にも、ちょっとでもすっきりして帰ってもらいたい。

一杯そのものに加えて、会話や接客を含めた時間を大切にする。その姿勢が、桑江さんの店づくりの軸になっています。

香りや見た目にも工夫を凝らした一杯。提供写真
香りや見た目にも工夫を凝らした一杯。提供写真

お酒を飲まない人にも、楽しみ方を

桑江さんが大切にしているのは、東洋の知恵をきっかけに、日々の暮らしや自分の体に目を向けてもらうこと。お酒を飲まない方には、モクテル(ノンアルコールカクテル)やビネガー、薬膳茶など、アルコールを使わない楽しみ方も提案しています。

この段落は、取材後に寄せられたコメントをもとに編集部が要約しました。提供内容は店舗によって異なるため、来店前にご確認ください。

素材の香りや味わいに親しむのに、お酒は必須ではありません。アルコールを避ける必要がある方は、アルコールを含まないことを確認して選びましょう。薬膳茶なども、原材料やアレルギー表示を確かめ、服薬中・妊娠中などは医師や薬剤師に相談してください。

お茶の香りを楽しみたい方は、香りと気分で選ぶ、お茶の時間もどうぞ。

初めての一杯の選び方

初めての店では、好きな香り、甘さの好み、お酒の強さなど、伝えられることから話してみる。桑江さんは、会話をしながら、その人が楽しめる一杯を考えているといいます。体調の悩みを、お酒で解決しようとする必要はありません。

濱田さん

話せることを、話せるぶんだけ話せばいいんですね。

桑江さん

そう。何も話さなくても、季節に合わせたものを出せます。今の季節なら、秋らしい素材を使った一杯。これからは冬に向けて、温かいお湯割りもいいですね。

柑橘の香りを加えたり、ソーダで割ったり。味わいの選択肢もさまざまです。ただし、水やソーダで薄めても、使ったお酒の量が同じなら、含まれるアルコールの総量は変わりません。「飲みやすさ」と「アルコールの少なさ」は別のこと。飲まない選択も含めて、自分に合う楽しみ方を。

家で楽しむときに知っておきたいこと

身近な素材の香りを楽しむ入り口として、桑江さんが挙げたのは生姜。ほかにもクコ、なつめ、陳皮、シナモン、シソなど、食材として親しみのある素材が話題に上りました。家庭では食品として販売されているものを使い、自己判断で薬用の材料を加えることは避けましょう。

アルコールを使わず、いつもの温かいお茶に生姜の香りを添えるのもひとつ。何かの効果を求めるより、好きな香りを見つける時間として楽しんでみてください。

なお、自宅で酒類に素材を漬け込む場合には酒税法上の条件があります。国税庁は、自分で飲むために作る場合の例外として、酒税が課税済みのアルコール分20度以上の酒類を使うこと、ぶどうや穀類などの禁止された材料を使わないこと等を示しています。作った酒類は販売できません。材料や方法によって扱いが異なるため、始める前に国税庁の案内をご確認ください。

飲酒は20歳になってから。妊娠・授乳中や運転前は飲酒を避けてください。健康のために飲酒を始めたり、量を増やしたりすることは勧められません。性別ごとの一定量を「毎日飲んでも安全な量」と考えるのも適切ではなく、体質や体調、病気によってリスクは異なります。

桑江夢孝さん プロフィール

桑江夢孝(くわえ・ゆめたか)さん。提供写真
桑江夢孝(くわえ・ゆめたか)さん。提供写真

株式会社HAREMUNE代表取締役。飲食などの仕事を経験したのち、2006年に東京・三軒茶屋で薬酒・薬膳酒の専門バーを開店。薬酒BARの店づくりを通じて、素材の香りや味わい、東洋の知恵に触れる機会を伝えています。

気になる香りを選んでみる。お酒を飲まない日は、お茶やモクテルを楽しむ。自分の好みや過ごし方に目を向けることから、一杯との付き合い方を考えてみませんか。

店舗・参考情報

公開情報は2026年10月21日に確認しました。店舗の営業・提供内容は公式情報をご確認ください。

東洋びよりからのお知らせ

本記事は、取材対象者の経験と店づくり、飲み物の楽しみ方を紹介するものです。酒類や食品による病気の予防・治療、免疫機能の向上などを示すものではありません。健康上の理由で飲酒を控えるよう指示されている方は、医療者の指示を優先してください。