「1ミリでもいいから、今の自分よりかわいくなりたい」。中学1年生の夏、そう願った少女は、コンタクトレンズに替えたい理由を紙に書き、両親にプレゼンテーションをしました。美容を仕事にする木元仁玉さんの原点は、この小さな自分改造計画にあります。
メイクを学んで渡ったニューヨークで、それまで信じていた美しさの基準が変わったこと。発酵を研究してきた母と、スキンケアをつくったこと。そして今、薬膳や発酵を毎日の食卓へ届けようとしていること。兵庫県姫路市の食品・化粧品メーカー、マルセイの木元さんに、美容と食養生がつながるまでを聞きました。
話の後半には、「忙しくても削らないもの」「自分に合わずにやめたこと」「お金をかけるところ」も。ものづくりの背景をたどると、木元さん自身の、気負いすぎない暮らしが見えてきます。
自分の力で変われたと思えた夏休み
濱田さんお母さまは健康や食の分野を専門にされていますが、木元さんが最初に美容の道を選んだのは、どんなきっかけだったのでしょうか。
木元さん私は5歳のときに中国から日本に来たんです。まだ日本語もおぼつかないまま小学校に入って、周りの女の子たちが、すごくかわいく見えました。髪をきれいに結ってもらって、かわいい服を着ていて。母は研究者で、おしゃれより勉強という人だったので、私の髪も母が切っていました。眼鏡をかけて、周りと自分を比べては、私はかわいくないなって思っていたんです。
濱田さんそんな小さい頃から、周りとの違いを感じていたんですね。
木元さんそうですね。そこから中学1年生になって、好きな男の子ができたんです。「みんなみたいにはなれないかもしれないけど、1ミリでもいいから、今の自分よりかわいくなりたい」と思って。夏休みに、自分改造計画を立てました。
木元さん親には「私がコンタクトにしたい5個の理由」を書いて、ものすごくプレゼンして(笑)。何とかコンタクトに替えてもらって、美容室にも初めて連れていってもらいました。休み明けに学校へ行ったら、周りの反応が変わったんです。かわいいなと思っていた女の子たちに遊びに誘ってもらったり、男の子から告白されたり。今思えば、見た目にものすごい差があったわけではないんでしょうけど。
濱田さん自分で動いて、変わったと感じられたんですね。
木元さん中国から来て、どこかで疎外感を持っていた私が、自分の努力で人生を変えられたと思った。その経験が大きかったんです。誰かにとっても、そういうきっかけになることを仕事にしたい。13歳のときに思ったことを、今も同じ気持ちで追いかけています。それは、自分の誇りの一つですね。
ニューヨークで変わった美しさの基準
最初に目指したのは、メイクアップアーティスト。大学とメイクの専門学校に通い、その後ニューヨークへ。学んでいた学校と関わりのあるアーティストのサロンを探し、「弟子にしてください」と訪ねたといいます。
濱田さんニューヨークまで、自分で会いに行ったんですね。その行動力がすごいです。
木元さんちょうどニューヨークコレクションの時期で、人手が足りなかったこともあって、現場に入れてもらえたんです。いろいろな肌の色のモデルさんがいて、ファンデーションも何十種類と並んでいる。それを混ぜながら使うのも、初めての経験でした。
木元さんそれまでは、目は大きいほうがいい、二重のほうがいい、顔は小さいほうがいいと、自分の中に美しさの基準があったんです。でも、いろいろな人を見ていたら、その基準が崩れました。じゃあ、私が共通して美しいと感じるのは何だろうと考えたときに、肌だったんです。どんな肌の色でも、つやのある肌が美しいなって。
濱田さんメイクでどう変えるかというところから、肌そのものへ関心が向いた。
木元さんはい。帰国してからはスキンケアに興味を持つようになって、就職活動でもそういう会社を受けていました。その後、ビジネスコンテストで優勝して、東京で起業することになったんです。
木元さん今は、目の大きさやまつげの長さだけじゃなくて、その人の笑顔や、元気そう、幸せそうという印象に惹かれます。健康があって、その上に美容がある。その両方を大切にしたいと思っています。
美容から入った娘と 発酵を研究してきた母
母娘で開発したスキンケア「オムニスト」。提供写真木元さんにとって、食養生は大人になって初めて出会ったものではありません。中国で過ごした幼い頃、家には乾燥したなつめがあり、おやつのように食べていたそう。取材では、さんざしのお菓子の話でも盛り上がりました。
濱田さん特別に「養生をしよう」と思う前から、身近にあったんですね。お母さまと一緒につくった最初の商品は、何だったのでしょうか。
木元さん化粧品の「オムニスト」です。東京で自分の仕事をしながら、大学時代から両親の会社のラベルやチラシをつくるなど、少しずつ手伝っていました。その中で、ずっと思っていたんです。世の中に化粧品は星の数ほどあるのに、どうして女性の肌の悩みは、こんなになくならないんだろうって。
濱田さん何かしら悩みがあるという方は、多いですよね。
そこで重なったのが、母・聖花さんが長年取り組んできた発酵の研究でした。木元さんが語る母の原点には、家族の病気と死を経験し、大切な人の健康のために学びたいと考えたことがあります。食と体について知ることを、自分だけでなく家族のためにも役立てたい。その思いが、ものづくりにも引き継がれています。
木元さん母には、知識を持っていることが、大切な家族を守る糧になるという考えがあるんです。発酵を専門に研究して、その後、漢方も学び直してきました。私の入口は美容でしたけど、今は健康と美容を分けて考えていません。
濱田さん食品、発酵、スキンケアには、木元さんたちの中で共通する考え方があるのでしょうか。
木元さん私たちは、自分一人で生きているように見えて、たくさんの菌と一緒に生きていますよね。母がつくってきた発酵食品も、スキンケアも、何かをどんどん足していくより、必要なものを見極めて選びたい、という考えが根っこにあります。オムニストをシンプルなケアにしているのも、そこにつながっています。
木元さんが語るのは、食品と化粧品に共通する、つくり手としての姿勢です。発酵という言葉だけで、すべての商品に同じ働きがあるという意味ではありません。ここでは製品の効果ではなく、母娘が何を大切にしてきたのかに目を向けます。
オムニストの開発では、母と娘で役割をはっきり分けていたといいます。中身の研究開発と品質テストは聖花さん。名前や価格の決定、パッケージ、パンフレットやホームページの制作、広報といった、それ以外のすべてを木元さんが担いました。
濱田さん名前を決めるときは、どんなやり取りがあったんですか。
木元さん最初に母から出てきた案が、「肌ぷるりん」だったんです(笑)。分かりやすいけれど、若い人が使いたくなる名前ではないなと思って、却下しました。今思えば、それも可愛いですね(笑)。
濱田さん試作の段階で、ほかに印象に残っていることはありますか。
木元さん発酵させてつくる美容液なので、最初はどうしてもチーズのようなにおいがしたんです。母は「発酵しているし、こんなものでしょう」と言っていたんですけど、私はどうしてもそのにおいが気になって。思いつく方法をいろいろ試して、においを抑えていきました。今は酵母とオレンジの香りになって、最初のころとは比べものにならないくらい使いやすくなったと思います。
中身をつくる母と、届け方を考える娘。名前ひとつ、香りひとつにも、二人の視点の違いが表れていました。
薬膳を知る入口は 帰り道のスーパーにも
薬膳や発酵を身近に感じる場として始めたカフェ。提供写真
濱田さん今、木元さんがこれから届けたいと思っているものは何ですか。
木元さんメーカーとしては、母が長い時間をかけて積み上げてきた技術や知見を、私たちの代でも引き継いで、さらに発展させていきたいです。発酵と、漢方や薬膳。その両方を商品に落とし込めるところが、私たちのものづくりの特徴だと思っています。日本と中国、それぞれの伝統をつなぎながら、これからの世代にも役立つものをつくりたいですね。
濱田さんカフェを始められたのも、その思いとつながっていますか。
木元さんはい。薬膳や発酵の世界が、こんなに魅力的だということを知ってほしかったんです。薬膳を学ぼうと思って本を買ったけれど、難しくて閉じてしまったという方もいるんですよ。だから、まずは帰りのスーパーでも実践できるようなことから伝えたい。
木元さん例えば、季節と食材の色の話をすると、「じゃあ、次の季節は何色なの?」と興味を持ってもらえる。そこから説明を聞いたり、カードを持って帰ってもらったりして、少しずつ身近になっていけばいいなと思っています。
【伝統的な考え方】中医学の五行説では、季節ごとに対応する色や味があると考えます。食材選びを楽しむための考え方の紹介で、特定の食材の働きを示すものではありません。
濱田さん知るきっかけがあると、奥深さにも触れてみたくなりますよね。
木元さん「毎日の食卓に発酵と薬膳の力を」というのが、私たちのテーマなんです。別に、うちの食品じゃなくていい。発酵や薬膳が、毎日の食卓に当たり前に並ぶようになってほしいんです。だから、講演の依頼も、忙しくてもできるだけ受けるようにしています。
話は、商品を選ぶことから、自分の健康に関心を持つことへと広がりました。食事だけでなく、睡眠や運動も含めて、日々の過ごし方に目を向けてほしい。木元さんが伝えたい「健康リテラシー」には、そんな思いも込められています。
忙しくても削らない睡眠 合わなかった朝活
濱田さんとはいえ、毎日忙しい方も多いですよね。木元さんが、忙しい日でもこれだけは続けているということはありますか。
木元さんこれは、寝ること一択です。寝るのが大好きなのもあるんですけど(笑)。若い頃は、ほとんど寝ずに無理をしていた時期もありました。でも今は、どんなに忙しくても、睡眠時間を慢性的には削らないと決めています。
濱田さん普段は、何時くらいに寝ているんですか。
木元さんよほど忙しくなければ、夜10時くらいにはベッドに入って、少しごろごろして、11時くらいには寝ています。朝は、7時とか8時くらいですね。
濱田さん反対に、いろいろ試す中で、自分に合わなくてやめたことはありますか。
木元さん早起きです。本を読むと、経営者は早起きとか、朝活がいいとか、よく出てきますよね。一度、ちゃんとやってみようと思って試したんですけど、自分とは思えないくらい注意が散漫になって。車の鍵を家の鍵穴に入れようとしたり、予定を重ねて入れてしまったり。夫からも、やめたほうがいいと言われました。
濱田さんどのくらい試していたんですか。
木元さん1か月もなかったと思います。2、3週間くらい。夜も寝るようにはしていたんですけど、私には、その朝活のやり方が合っていなかったんですね。
濱田さん自分の体の声を聞くというのは、そういうことでもありますね。合う人がいても、みんなに合うとは限らない。
健康に良さそうな習慣でも、始めたあとの自分がどうなのかを確かめる。木元さんの話は、「続けること」と同じくらい、「合わなければやめること」も大切にしていいのだと感じさせてくれました。
お金をかけるのは 続けられる体のメンテナンス
濱田さん今はいろいろな商品やサービスがありますが、お金をかけるところと、身近なもので済ませるところは、どう分けていますか。
木元さん今は、パーソナルトレーナーにお金をかけています。私、自分一人だと運動が続かないんですよ。夫とジムへ行ったり、歩こうと決めたりもしたけれど、1、2か月くらいで続かなくなって。家の近くに知り合いのジムがあって、行ってみたら、次の予約をちゃんと取ってくれる。その感じが私には合っていました。
木元さん週に1回、出張などがなければ行くと決めて、1年半くらい続いています。最初の30分は筋トレで、残りの60分はストレッチやボディケア。明日は筋トレか、と思っても、「そのあとにストレッチがあるし」と思うと行けるんです。
濱田さんそれは私も行けそうです(笑)。頑張ったあとに楽しみがあるんですね。
木元さん家から歩いて5分くらいなのも、いいんだと思います。40歳を迎える前に運動習慣をつけたいと思って始めたんですけど、今は自分では、成人してからいちばん調子がいいと感じています。
濱田さん日々の食事にも、かなり手をかけているのでしょうか。
木元さんそう思われがちなんですけど、家では結構、質素ですよ。鮭やさばを焼いたり、餃子をゆでたり、カレーだったり。国産の野菜を選ぶなどはしますけど、毎日、高い食材で凝った料理をつくっているわけではないです。体のメンテナンスと、ときどきの外食にはお金を使いますけど、家のごはんは、そんなに大げさなことはしていないですね。
日常の食卓は身近なもので。自分だけでは続けにくい運動には、人の手を借りる。木元さんは、やってみて続いたことを、暮らしの中に残していました。
きれいになりたい気持ちを 今の自分に合う形で
13歳の木元さんを動かしたのは、「今より少しでもかわいくなりたい」という気持ちでした。メイクを学び、さまざまな美しさに触れ、母と商品をつくるうちに、その関心は、肌を支える食事や暮らしへと広がっていきます。
それでも、木元さんの毎日は、特別な養生で埋め尽くされているわけではありません。よく眠る。家では魚を焼く。運動は、続けられる場所と仕組みを選ぶ。母から受け継いだ食の知恵も、自分に合う形で暮らしに取り入れていました。
「別に、うちの食品じゃなくていい」。その言葉が印象に残ります。商品を手に取る前にも、できることはある。今日の食卓や、今夜眠る時間を、自分のために少し考えてみる。運動なら、家から歩いて通える距離か、次の予約を決めてくれる仕組みがあるか。木元さんのように、続けやすい条件から場所を選ぶのも一つの方法です。木元さんの話を聞いて、私もまずは、無理なく通える運動の場所を探してみたくなりました。
プロフィール
木元仁玉(きもと・じんぎょく)さん。株式会社マルセイ取締役。大学とメイクアップ専門学校で学び、ニューヨークでメイクの現場を経験。東京で美容関連の会社を起業し、両親が営むマルセイの仕事にも携わる。母・木元聖花さんとスキンケア「オムニスト」を開発。発酵や薬膳を日々の暮らしに取り入れるための発信にも取り組んでいる。
本記事は取材をもとに、発言の重複や言いよどみを整理し、話題の順序を一部組み替えて構成しています。
本記事は、取材対象者の経験とものづくりの考え方を紹介するものです。個人の体験を、特定の商品や習慣の効果として示すものではありません。
ものづくりについては、株式会社マルセイの紹介ページもご覧ください。